【総まとめ】個人事業主・フリーランスの方のおすすめの節税方法10選

前回の記事では「会社員を退職してフリーランスになったときに必要になる手続」を解説しました。

個人事業主は、会社員のように給与所得控除を受けることが出来ません。何の対策もしなければ会社員と比較して税金の負担率がかなり高くなってしまいます。

そこで、今回は個人事業主やフリーランス、独立されているエンジニアの方、不動産オーナーの方などに向けて、節税に役立つおすすめの制度をご紹介します(以下、総称して個人事業主と呼びます)。

なお、この記事では、税務調査で否認を受ける可能性が高いグレーな節税方法については極力排除しておりますので安心してご利用いただけます。

※【免責事項】当記事は投稿日時点に施行される法令に基づき一般的な取扱いを記載したものです。閲覧者が当記事を参考にして行った税務申告は閲覧者自身の責任によって行われ、当記事の内容に誤りがあり閲覧者に損害が生じた場合でも当事務所は責任を負いません。万が一記事の内容に誤りがある場合、お問い合わせフォームからお知らせいただけると幸いです。

目次

① 青色申告特別控除 【おすすめ度:★★★★★】

制度の特徴

青色申告とは、精度の高い税金の申告を税務署と約束する代わりに、一定の税金計算上の恩恵を与えてもらう仕組みです。その恩恵の一つとして事業所得、不動産所得から一定額の所得控除を受けることが出来ます。控除を受けることが出来る金額は要件に応じて以下の通りになります。

適用要件所得控除の金額
簡易な記帳の場合10万円
複式簿記で期限内申告を行う場合55万円
上記に加えて電子申告を行う場合65万円
※上記は所得から控除できる金額です。この額だけ税金が安くなるわけではありません。

どのくらいの節税効果が見込めるか?

「所得控除」と「税額控除」は違います。いくら税金が安くなるかは、「所得控除」の金額に対して税率をかけることで算出されます。
青色申告特別控除の所得控除を受けることが出来るのは所得税の事業所得または不動産所得が対象ですが、住民税と社会保険料にも当該控除の効果が及びます。そのため節税効果はこれらのトータルで考え、所得控除の金額×トータル税率で節税額を計算します。

青色申告特別控除
適用前の所得水準
500万円の場合800万円の場合1,100万円の場合
所得税率10%23%33%
住民税率10%10%10%
国民健康保険料率14%14%14%
トータル税率34%47%57%
概算税額メリット
(65万円×合計%)
約22万円約30万円約37万円
国民健康保険料は自治体によって水準が異なるため概算です。


結果、所得が500万円程度の水準であっても1年あたり約22万円と、かなりの額の税金・社会保険料が減少していることが分かります。青色申告特別控除は複式簿記による記帳などで事務負担は増えるものの、それに見合った大きな節税効果を得ることが可能といえます。

② 小規模企業共済 【おすすめ度:★★★★☆】

制度の特徴

小規模企業共済とは、国の機関である中小機構が実施している、中小事業者向けの共済制度です。個人事業主の方が毎月一定額の掛金を支払うことでその掛金が積立運用され、将来の廃業時に退職金としてまとめて受け取ることが出来ます

その月々の掛金については所得税の申告上、必要経費の算入することが出来ます。さらに、廃業時に受け取る金額は退職金として退職所得に区分されます。事業所得や不動産所得よりも税率が低いことから節税に繋がります。

個人事業主は会社員のように退職金の積立制度がありません。そのため、事業主自らのライフプランニングを設計し、積立などを行わない限り退職時にまとまったお金を受け取ることが出来ません。

節税効果が高いのはもちろんですが、小規模企業共済に加入しておくことで事業の廃業後や老後の資金を確保することができるという側面からも加入するメリットが大きく、優先度が非常に高いものです。

どのくらいの節税効果が見込めるか?

こちらで節税額のシミュレーションを行うことが出来ます。

加入方法

加入には申込が必要です。書面による申込はこちらのページから資料請求をして、提携先の金融機関に申込書を持参することで行います。また、こちらのページでオンラインでの申込も行うことが出来ます。オンライン申込のほうが金融機関とのやり取りも不要で手続きがスムーズのためおすすめです。

この記事で対象としている個人事業主、フリーランス、エンジニア等の方が加入資格で問題となることは少ないと思いますが、加入資格も具体的なルールがあるためよく確認しておきましょう。たとえば会社員と個人事業を兼業していて給与所得が生じているような方は加入することが出来ないため注意が必要です。

小規模企業共済のデメリット

小規模企業共済はデメリットもあります。
それは資金が長期間拘束されることです。若くして起業された場合、退職時や廃業時まで30年以上あると思います。それまで共済金として積み立てしている資金は受け取ることが出来ません。目先にまとまった資金需要がある方については他の節税策を優先して良いと思います。また、小規模企業共済は掛金を一定範囲で任意に設定出来ますので、加入するとしても少額にしておくことは可能です。

確定申告における留意点

所得税の確定申告書の小規模企業共済等掛金控除の欄に控除を受ける金額を記入し、支払った掛金の証明書を確定申告書に添付する必要があります。

③ ふるさと納税 【おすすめ度:★★★★☆】

制度の特徴

ふるさと納税とは、ご自身のふるさとや応援したい自治体に寄附ができる制度です。
寄附をした額自体はそのまま支出となりますが、寄附した金額相当が所得税や住民税のマイナスという形で実質100%が通常の所得税と住民税から控除されることから、実質負担ゼロで寄附を行うことができ、なおかつ好きな返礼品を受け取ることが出来ることが節税に繋がります。

どのくらいの節税効果が見込めるか?

ふるさと納税により得られる価値は、「返礼品(現物)の価値 - 約2,000円」になります。

個人事業主の場合はワンストップ特例ではなく、確定申告によりふるさと納税した寄附金の額を申告することになります。当年において支払った寄附金の額は、当年度の所得税の申告において所得から一部が控除され、また翌年の住民税の税額からも一部が控除されます。
所得が増えれば増えるほど実質無税で寄附して得られる返礼品も増えることから節税効果としてはかなり大きいです。

確定申告における留意点

ふるさと納税の「返礼品」は一時所得になります。一時所得の特別控除額が50万円あるので一時所得の金額が50万円を超えない限り課税されませんが、多額の寄附を行った場合や、他の一時所得が生じている場合については注意が必要です。

④ NISA(ニーサ)【おすすめ度:★★★★★】

制度の特徴

NISAは小額投資非課税制度のことで、NISA口座で取得した金融商品から生じた配当金・譲渡益が非課税となる制度です。通常の場合は約20%課税されますが、NISAの場合は完全な非課税となります。
不安定な個人事業主にとって、配当金は副収入となり、譲渡益は将来の財産形成に大きく寄与します。

非課税限度額

つみたて投資枠成長投資枠
年間投資枠120万円240万円
非課税限度保有限度枠1,800万円1,800万円
非課税保有期間期間制限なし期間制限なし

節税手段としてのNISAのメリットとデメリット

株式や投資信託の金融商品についてはこの記事で紹介する他の制度とは違って、大きくマイナスになるリスクがあります。そのため、元本割れするリスクを許容できない方にとってはNISAで非課税であってもおすすめできません。

しかし、金融庁のリサーチによれば、保有期間20年程度の長期積立投資を行う場合にトータルで損益がプラスになる可能性はほぼ100%であると示されています。出来るだけ損失リスクを回避して節税を行いたい場合は、つみたて投資枠で毎月一定額を投資することがおすすめです。

⑤ 経営セーフティ共済【おすすめ度:★★★☆☆】

制度の特徴

経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)とは、小規模企業共済と同様に中小機構が実施する共済制度です。共済掛金を継続的に支払い、万が一取引先事業者が倒産した際に、共済金を受け取ることで中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐものです。

共済契約を解約された場合は、解約手当金を受け取れるほか、自己都合の解約であっても、掛金を12か月以上納めていれば掛金総額の8割以上が戻り、40か月以上納めていれば、掛金全額が戻ってきます

経営セーフティ共済のデメリット

デメリットは小規模企業共済と同様です。掛金として拠出した資金が長期間拘束されるためライフプランニングを考慮して掛金を設定する必要があります。

⑥ iDeCo(イデコ)【おすすめ度:★★★☆☆】

制度の特徴

iDeCoとは個人版確定拠出年金制度のことです。
事業主自ら年金の掛金を拠出し、自ら運用して資産を形成します。

60歳以降に老齢給付金を受け取ることができます。
掛金は全額所得控除になることから、その年の税金を減らすことが出来ます。

小規模企業共済との比較

iDeCoと小規模企業共済は、①加入期間が長期にわたること、②掛金として支払った額がその年の経費(所得控除)となり、その年の税金が減少するという点において似ている制度になります。

両者が異なる点は以下の通りです。

iDeCo小規模企業共済
投資のリスク投資責任を自ら負うため元本割れするリスクがあるその分リターンも大きくなる可能性がある一定期間加入継続することで元本割れは生じない
掛金5,000円~68,000円1,000円~70,000円
中途解約の可否解約不可解約可能
※ただし20年以内の解約は元本割れリスクあり。
積立金の貸付制度なしあり

この2つの制度でどちらを利用するか迷った場合は、積立金の貸付制度がある小規模企業共済のほうが資金拘束のリスクが少なくおすすめです。一方で、インフレ対策やリターンを重視したい場合は元本成長に期待できるiDeCoに加入するほうがおすすめです。

⑦ 年末の経費購買【おすすめ度:★★★☆☆】

たとえば今年に想定以上に業績が好調で所得が大きくなりそうな場合、来年発注する予定の少額な備品や事務用品などを今年購入しておくことで今年の経費が増加し所得が圧縮されることから節税になります。

ただし、この節税をする上で注意しなければならないのは、絶対に必要なものだけを購入することです。

また、この方法はもともと翌年の購買を前倒しするだけのものです。そのため、今年単年度でみた場合は税金が減りますが、今年と翌年の通算でみた場合の税金は基本的に同額になります(累進課税の税率区分が動く場合には実質節税にもなります)。

そういった意味で節税効果は限定的ですし、見込み違いでかえって無駄なものを買ってしまう可能性もあるため注意が必要です。
なお、消耗品費として経費計上可能な少額な備品などを購入しても実際に事業の用に供していなければ前払費用として経費にならない可能性があるため注意が必要です。

⑧ 短期前払費用の特例の活用【おすすめ度:★★★☆☆】

複式簿記で発生主義により経費を計上する場合、継続的なサービスの購入についての未経過分部分については前払費用として資産計上しなければなりません(支出が当期でも未経過部分は翌期以降の経費にしなければなりません)。

例:個人事業主Aは、X5年11月に火災保険料12万円を支払った。保険期間はX5年11月~X6年10月末までの1年間である。

➡上記の場合だと正規の簿記によりX5年の経費を計算した場合は、11月~12月の2か月間に対応する2万円のみが経費となります。翌年1月~10月までの10か月分相当はまだサービスを受けていないことから経費とすることが出来ません。

しかし、事務負担を考慮して、国税庁の通達では1年以内に提供を受けるサービスについては前払費用に計上しなくてもよいとする特例を規定しています。

所得税基本通達 37-30の2 短期の前払費用
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうちその年12月31日においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下この項において同じ。)の額はその年分の必要経費に算入されないのであるが、その者が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する年分の必要経費に算入しているときは、これを認める。

この特例を利用して、来期に契約予定のサービスを前倒しで契約することが節税に繋がります。

⑩ 賃上げ促進税制【おすすめ度:★★★☆☆】

賃上げ促進税制とは

雇用者の給与等支給額を増加させた場合には、その増加率に応じて一定率の税額控除の適用を受けることが出来ます。適用要件は年度によって大きく変わります。以下に記載する控除率についての適用時期は令和7年から令和9年までの各年が対象となります。

賃上げ促進税制は税金が減る以上に給与を増加させる必要があるため、直接的に節税というわけではないですが、税額控除率が非常に大きく経営上のメリットが大きい制度です。

具体的な税額控除

適用要件税額控除率
全雇用者の給与等支給額+1.5%以上増加した給与等支給額 × 10%
全雇用者の給与等支給額+2.5%以上増加した給与等支給額 × 20%
教育訓練費が前年度比+5%以上上記に10%上乗せ

⑨ 生前贈与【おすすめ度:-】

個人事業主の場合、所得税に注意が行きがちですが、節税は所得税だけでなくすべての税目の合計額に着目する必要があります。特に、事業を通じて多額に財産形成されている場合、将来起こる相続税は負担が大きくなりやすいです。

事業主本人は節税の恩恵を受けることは出来ませんが、次世代までの税金を考えた場合、暦年贈与(毎年110万円の非課税の範囲内での贈与)をするだけでもかなりの相続税額の節税に繋がります。

※生前贈与については具体的には他の解説記事でご紹介していますのでそちらをご参照ください。

まとめ

節税に役立つ制度をまとめると以下の通りになり、それぞれ特徴があります。

青色申告特別控除小規模
企業共済
ふるさと
納税
NISAiDeCo年末の
経費購買
短期
前払費用
損をする
リスク
リスク
ゼロ
リスク
ほぼなし
リスク
ゼロ
リスク
有り
リスク
有り
リスク
ゼロ
リスク
ゼロ
資金流出
の有無
なし実質なし
(積立)
実質なし
(翌期回収)
実質なし
(投資)
実質なし
(積立)
ありあり
資金の拘束有無なし長期拘束
あり
1年程度
拘束あり
なし長期拘束
あり
殆どなし殆どなし
節税の性質所得控除退職金
積立
税金前払+返礼品非課税退職金
積立
課税の繰り延べ課税の繰り延べ
大まかな
年間節税額
数十万円
程度
数万~30万円程度返礼品
の価値相当
投資成績により変動投資成績により変動(繰り延べのみ)(繰り延べのみ)
※節税額には住民税・社保への影響額も含めて記載しております。

以上、ここまで節税に繋がるしくみを解説しました。特におすすめ出来るのは青色申告特別控除とNISAです。
ご紹介する制度については、それぞれ特徴があるので、ご自身のライフプランに沿ったものを取り入れていくのがおすすめです。

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