自己株式を売買する際の会計および税務の処理と留意点【みなし配当・特例】
このページでは自己株式を売買するときの会計上の仕訳、税務処理や留意点を解説します。
自己株式の売買は、企業側で必要な手続がされなかった場合、連鎖して株主側の申告にも誤りが生じてしまうことから必要な手続や正しい処理方法をふまえて慎重に行う必要があります。
みなし配当の処理については難解であるためこのページでは以下の設例に沿って、発行法人である自己株式を取得する企業側、発行法人に自己株式を譲渡する株主側のそれぞれの立場から説明します。
【設例】
・株主AはX社と相対取引によりX社株式を1株当たり50,000円で100株譲渡した。
・取引直前におけるX社の1株当たりの資本金等の額は30,000円であった。
※【免責事項】当記事は投稿日時点に施行される法令に基づき一般的な取扱いを記載したものです。閲覧者が当記事を参考にして行った税務申告は閲覧者自身の責任によって行われ、当記事の内容に誤りがあり閲覧者に損害が生じた場合でも当事務所は責任を負いません。万が一記事の内容に誤りがある場合、お問い合わせフォームからお知らせいただけると幸いです。
自己株式を取得する会社側の処理(発行法人側の処理)
会計上の取扱い(STEP.1)
発行法人が自己株式を取得する場合、取得原価により資産計上し、決算書上は純資産の部の株主資本から控除するとすることとされています。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
自己株式 | 5,000,000円 | 預金 | 5,000,000円 |
※上記設例では解説の便宜上、源泉税を無視しています。実際には源泉税の金額を預り金(貸方)で計上します。
税務上の取扱い(STEP.2)
取得者である発行法人が非上場企業の場合
別表5(1)の処理
自己株式の取得により交付した金銭の額が取得資本金額を超える場合、その超える部分の金額は、みなし配当として自己株式の取得時に利益積立金を減算する処理を行うこととされます。また、取得対価のうち左記みなし配当以外の部分の金額については取得時に資本金等の額を減算する処理を行います。
利益積立金 | 資本金等の額 |
---|---|
資本金等の額 △2,000,000円 期末残高 △2,000,000円 | 自己株式 △5,000,000円 利益積立金 2,000,000円 期末残高 △3,000,000円 |
取得資本金額は以下の式により計算します。
自己株式取得直前の資本金等の額(*1) / 直前の発行済株式総数(*2) × 自己株式の取得株数
*1:残高がマイナスの場合はゼロとする。
*2:自己株式を控除した数
別表4の処理
課税所得金額には影響ありませんが、留保所得の欄を正しく計算するために流出・配当の欄にみなし配当の額を記入します(設例の場合:2,000,000円)。
源泉徴収漏れに注意
自己株式を取得する発行法人は、みなし配当部分について源泉徴収を行う必要があります。源泉徴収を失念して納期を経過すると不納付加算税が課されてしまいます。さらに、事後に株主に源泉徴収が漏れていた分を請求することは難しく源泉徴収税額部分も発行法人負担とならざるを得ないケースもあります。そのため源泉徴収漏れがないようにみなし配当の処理は慎重な検討が必要です。
取得者である発行法人が上場企業の場合
別表4の処理
金融商品取引所を通じて自己株式を取得する場合には特段の処理は不要です。
別表5(1)の処理
上場企業のように、企業が金融商品取引所を通じて自己株式を取得する場合や、ToSTNeT取引(トストネット・立会外取引)の場合は、みなし配当は生じないこととされています(東裁(法)平23-233)。
一方、上場企業等が相対取引やTOBにより自己株式を取得する場合は、上記「非上場企業の場合」と同様にみなし配当を認識することになります。
※下記の例は金融商品取引所を通じて自己株式を取得する場合です。
利益積立金 | 資本金等の額 |
---|---|
期末残高 0円 | 自己株式 △5,000,000円 期末残高 △5,000,000円 |
自己株式を譲渡する株主側の処理
株主が法人である場合の会計上の取扱い(STEP.1)
※株主が個人の場合はこの部分を飛ばします。
【設例の続き】
・A社はX社から1株当たりのみなし配当が20,000円である内容の通知を受けた。
・みなし配当に対して源泉徴収された金額は合計で408,400円であった。
・A社のX社株式の譲渡直前の1株当たりの帳簿価格は10,000円であった。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
預金 | 4,591,600円 | 投資有価証券 | 1,000,000円 |
法人税等 | 408,400円 | 受取配当金(または投資有価証券売却益) | 2,000,000円 |
投資有価証券売却益 | 2,000,000円 |
税務上の取扱い(STEP.2)
株主が保有する非上場株式を発行会社に譲渡し、発行会社から対価として金銭等の交付を受けた場合、その交付を受けた金銭等の合計額がその発行会社の資本金等の額のうち、その交付の基因となった株式に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額は配当所得とみなされて所得税が課税されます。
株主が法人である場合
別表4の処理
受取配当金2,000,000円に対して、受取配当金の益金不算入の規定により一定額を減算します。
益金不算入となる金額は発行法人の持株割合等によって変動します。
別表5(1)の処理
特にありません。
株主が個人である場合
個人の所得税の申告において、みなし配当部分は配当所得として累進課税されます。また、譲渡損益部分は譲渡所得として分離課税されます。
配当所得 | 譲渡所得 |
---|---|
収入金額 2,000,000円 ➡累進税率による総合課税。 配当控除の適用。 | 収入金額 2,000,000円 取得費 1,000,000円 ➡譲渡所得に対して分離課税 |
非上場企業が自己株式を取得する際の留意点
非上場企業が自社株買いをする際に派生して検討すべき論点はかなり多くあります。ここでは主な論点について簡単に説明します。
分配可能額の制限
自己株式の取得も剰余金の配当と同様に原則として財源規制が課せられています。会社法に規定する分配可能額の範囲内で行う必要があります。
グループ法人税制
取引当事者に完全支配関係がある場合、上記設例とは異なり、譲渡損益を計上しない等の処理を行うことになります。
取引価格の妥当性(税務上の時価の検討)
上場株式の場合、基本的に株式市場を通じて売買されるため取引価格は時価といえます。一方で、非上場株式は取引市場が存在せず、取引頻度も限られています。売買の相手方も自己株式の発行法人と縁故のある方である方が多く、取引当事者の主観的な事情により価格が左右されることも少なくありません。
自己株式の取引価格が第三者価格と乖離する場合には別途、税務調整が必要になることがあります。取引価格の決定には慎重な検討が必要になります。
みなし配当の通知義務
みなし配当事由により金銭等を交付する場合は、その支払を受ける者に対し、みなし配当の発生理由や、みなし配当の額等の一定事項を通知することとされています。
法定調書の作成
みなし配当で金銭等を交付する法人は支払調書の作成が必要です。様式はこちらのページからダウンロードすることが可能です。
相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例
相続により株式を取得し、一定の要件を満たす株主が発行法人に当該株式を譲渡した場合については、みなし配当課税(累進税率による総合課税)を行わずに、全額を非上場株式の譲渡所得の収入金額(所得部分に対して20.315%の分離課税)として取扱う特例があります。
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