相続税や贈与税の無申告加算税の「正当な理由」とは?
相続税申告や贈与税申告について、納税者にとって意図しない申告義務の判断誤りを税務署から指摘され「無申告であった」と判断されてしまうことがよくあります。
特に、相続税については税金の申告を行うことに慣れていない一般家庭で申告要否の判断を行うことや、申告不要となる基礎控除の額が非常に大きいことから、申告義務の有無を誤る可能性は高いと考えられます。
一般に、無申告を指摘されると「無申告加算税」や「延滞税」という罰金を支払う必要が生じます。相続税申告は一度に納税する金額も多額になることが通常のため、このような事故が起きると損失もかなり大きくなってしまいます。
ところで納税者自身に脱税を意図していないような場合にはいかなる事情があっても強硬的に無申告加算税は徴収されてしまうのでしょうか?
この点、一定の場合には「正当な理由がある」として納税者が無申告を不問とするケースがあります。
しかし、実際に国税不服審判所や裁判所で正当な理由に該当すると認められた事例はかなり限定的です。
この記事では思いがけず指摘された相続税および贈与税の無申告加算税に対する「正当な理由」を争った事例について裁決事例や判例を調査した結果をまとめて解説します。
※【免責事項】当記事は裁決事例や判例の一部を抜粋・要約したものであり、必ずしも類似する他の事例が当記事の内容と同様に当てはまるとは限りません。参考にされる場合は必ず原文の確認をお願います。閲覧者が当記事を参考にして行った税務申告は閲覧者自身の責任によって行われ、当記事の内容に誤りがあり閲覧者に損害が生じた場合でも当事務所は責任を負いません。
期限内に申告書を提出できなかった「正当な理由」とは?
まずは無申告加算税に関する課税ルールを確認します。
期限後申告等の場合については本来納付すべき税額に加えて、通常は無申告加算税が10%または15%課税されますが、「正当な理由」があれば課されないこととすることが規定されています。
国税通則法 66条 無申告加算税
次の各号のいずれかに該当する場合には、当該納税者に対し、当該各号に規定する申告、更正又は決定に基づき第35条第2項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に100分の15の割合(期限後申告書又は第2号の修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないときは、100分の10の割合)を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する。ただし、期限内申告書の提出がなかつたことについて正当な理由があると認められる場合は、この限りでない。
一 期限後申告書の提出又は第25条(決定)の規定による決定があつた場合
二 期限後申告書の提出又は第25条の規定による決定があつた後に修正申告書の提出又は更正があつた場合
「正当な理由」については国税庁の事務運営指針において、以下のように例示されています。
- 災害
- 交通・通信の途絶
- その他期限内に申告書を提出しなかったことについて真にやむを得ない事由
(通則法第66条第1項の正当な理由があると認められる事実)
1 通則法第66条の規定を適用する場合において、災害、交通・通信の途絶その他期限内に申告書を提出しなかったことについて真にやむを得ない事由があると認められたときは、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があるものとして取り扱う。
ここからは、実際に「正当な理由」に該当するかを巡った裁決事例を抜粋して掲載します。
情報の入手に制約がある事例
実務でよくあるケースですが、共同相続人から財産に関する情報の開示を受けることが出来なかった場合においても、適切に財産調査を行うことで把握することが可能なケースでは納税者の努力不足と評価されています。
また、一部の財産の金額が申告期限までに未確定であってもそれをもって申告期限までに申告しなくて良いということにはならないことが分かります。
概要 | 結果要約 | 詳細 |
---|---|---|
被相続人の財産を管理していた共同相続人から財産内容を開示してもらえなかったと納税者が主張した事例 | 納税者の負け 相続人間の主観的事情にすぎないから、「正当な理由があると認められる場合」に該当しない。 | 平成26年11月7日裁決 |
他の共同相続人が相続財産の内容を明らかにせず、遺産を調査する術がなかったと納税者が主張した事例 | 納税者の負け 請求人が基礎控除額を上回る額の相続財産を認識しておらず、申告の必要がないと判断したとしても、それは必要な調査を尽くさなかった結果であるというべきであるから、本件相続に係る相続税の申告が法定申告期限内に提出されなかったことにつき、「正当な理由があると認められる場合」に該当しない。 | 平成16年1月23日裁決 |
申告期限において一部の財産の金額が未確定であるが、それ以外の財産を合計すると基礎控除は超えている事例 | 納税者の負け 「正当な理由があると認められる場合」に該当しない。 | 平成29年6月15日裁決 |
体調不良・意思能力に関する事例
納税義務者の多忙や体調不良についても期限までに申告出来なかった正当な理由があると認められるのには相当ハードルが高いものと考えられます。
概要 | 結果要約 | 詳細 |
---|---|---|
納税者は意思能力がなかったと主張するが、相続財産の移転登記の依頼や預金取引を継続的に行う等していた事例 | 納税者の負け 申告書を提出できないほどの病状にあるとは認められないため、「正当な理由があると認められる場合」に該当しない。 | 裁決事例集 No.67 – 46頁 |
4年半の短期間に被相相続人らが相次いで亡くなり看病と葬儀の日々が続いていた等の事例 | 納税者の負け 多忙や税法の不知等の納税者の個人的な事情はこれには該当せず、「正当な理由があると認められる場合」に該当しない。 | 令和3年9月28日裁決 |
病気の妻の介護や納税者自身の腰痛が原因で法定申告期限内に贈与税申告書を提出できなかった事例 | 納税者の負け 妻の介護に要する労力や請求人の腰痛の病状がどの程度深刻なものであり、このことが法定申告期限内に申告書を提出しなかったことにどのような影響を及ぼしたのかや、自ら申告会場に行くことなく申告義務を果たすために申告書を郵送等で提出したり税理士に依頼したりすることがなぜ不可能であったのか等を含め、 (中略) 真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情の存在を認めることはできない。 | 平成28年12月5日裁決 |
行政庁の誤証明等による事例
さすがに公的書類である法定相続情報一覧図の記載内容が誤っていた事例では正当な理由が認められています。
概要 | 結果要約 | 詳細 |
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法務局の登記官が誤った「法定相続情報一覧図」を発行し、その内容を相続人が信じた結果、無申告となってしまった事例 | 納税者の勝ち 請求人が、本件初回一覧図写しの記載内容のとおり、自己が本件相続に係る相続人に該当しないと判断して相続税の申告書を法定申告期限内に提出しなかったとしても、それには無理からぬ面があり、(中略)「正当な理由があると認められる場合」に該当するというべきである。 | 令和4年6月16日裁決 |
申告期限前の納税相談において納税者の代理人が税務職員の説明を誤信した事例 | 納税者の負け 「正当な理由があると認められる場合」にあたらない。 | 高裁昭和48年3月9日 地裁昭和46年5月10日 |
その他の事例
その他、税目間違えでの申告や、依頼していた税理士との意思疎通がうまくいかなかった事例についても納税者が負けています。
概要 | 結果 | 詳細 |
---|---|---|
行った贈与について贈与税申告とすべきところ税目を誤って所得税申告として申告していた事例 | 納税者の負け 請求人の税についての不知又は誤解によるものというほかなく、「正当な理由があると認められる場合」に該当しない。 | 平成30年3月7日裁決 |
申告を依頼した税理士と納税者本人との間での意思疎通がうまくいかず申告期限を超過した事例 | 納税者の負け 期限内申告書の提出がなかったことについて 審査請求人と税理士との連絡や意思疎通が適切に行われなかったことが原因であり「正当な理由があると認められる場合」に該当しない。 | 平成28年4月12日裁決 |
以上によれば、「被災して物理的に申告不能」、「公的証明書類の誤り」のような場合は正当な理由が認められる可能性があると考えられます。
しかし、それ以外についてはどういった事情であれ正当な理由があると認められるケースは極めて限定的であることが分かります。
相続税申告の依頼をご検討されている方で、以下のような疑問点がございましたらお問い合わせください。
・相続が発生したが、相続税申告が必要かどうかよく分からない。
・相続税申告が不要だと思っていたが、基礎控除を超えているか、超えていないか不安がある。
・過去の相続について基礎控除以下で相続税申告不要だと思っていたが、問題がなかったか改めて見直したい。
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