外国税額の取り扱いと外国税額控除【税コスト最小化】
近年ではインターネットの普及により海外との取引も容易になり、大企業のみならず中小企業においても海外との取引による外国税額を支払う機会も増えています。
今回はその外国税額の申告上の取り扱いと外国税額控除制度について解説します。外国税額の取り扱いを理解することは会社全体の税コストの最小化(節税)に直結します。制度は難解になりますが得られる効果も大きいためぜひご参考下さい。
※外国税額控除は法人、個人いずれにおいても適用可能ですが、この記事では法人を前提として記載しています。
※【免責事項】当記事は投稿日時点に施行される法令に基づき一般的な取扱いを記載したものです。閲覧者が当記事を参考にして行った税務申告は閲覧者自身の責任によって行われ、当記事の内容に誤りがあり閲覧者に損害が生じた場合でも当事務所は責任を負いません。万が一記事の内容に誤りがある場合、お問い合わせフォームからお知らせいただけると幸いです。
外国税額控除とは?
日本の税金の計算は全世界所得課税方式のため海外で稼いだ所得についても日本で課税されます。
一方で、海外取引で所得が発生した場合は当然に現地国においても現地国の税制に則って課税されます。
そうすると、海外取引の部分については日本と現地国で二重課税が生じてしまいますが、
外国税額控除では、このような国際的二重課税が生じてしまう場合に、日本の課税計算上、税額控除を認めることにより、二重課税を排除するしくみです。
全世界所得課税とは
全世界所得課税とは、課税される所得について、国内所得だけでなく、国外所得を含めた全世界に範囲が及ぶとする考え方です。
たとえば日本の法人が、日本と米国で事業活動を行っているケースを想定します。この場合、日本国内での事業活動を行って得た所得(国内源泉所得)は日本の法人税等が課税され、米国で事業活動を行って得た所得(国外源泉所得)は米国の法人税等が課税される点については違和感は無いと思います。
それだけではなく、実際には、米国での事業活動を行って得た所得は日本の法人税も課税されます。一般的な感覚とはちょっと違うかと思いますが、多くの国ではその国の外で得た所得についても課税の範囲に含む課税方式が採用されています。これを全世界所得課税と呼びます。
この結果、二重課税の問題が生じてしまいます。二重課税を解消するための方法は様々ですが、その一つとして外国税額控除が存在します。
外国税額の2つの処理方式
外国税額を納付した場合、選択できる計算方法は次のいずれかになります。
① 損金算入方式
この方法は支払った外国税額をそのまま租税公課等の科目で損金として処理することが認める方法です。一般的な経費と同じような取り扱いです。
メリットとしては、損金算入をするだけで課税関係が完結することから処理が簡便であり、外国税額控除に関連する複数の申告書別表の作成や、控除限度額等の管理の手間が不要である点が挙げられます。
一方、デメリットとしては税金の国際的二重課税が排除しきれていない点です。外国税額控除を適用する場合と比較すると税金の払い過ぎた状態になってしまいます。
なお、当期の法人税等が欠損の会社については控除する対象の日本の税額が無いため、損金算入方式を採用することになります。
② 外国税額控除方式
外国税額控除方式とは、原則としてその国の法人が得る所得の全額をいったん課税した上で、その法人が外国において納めた税額を控除することにより国際的な二重課税の解消を図る方式です。
メリットとデメリットは上記①損金算入方式の逆の関係になります。メリットは国際的二重課税を完全に排除することが出来ることにより税額面で有利な点です。デメリットとしては外国税額控除に関連する複数の申告書別表の作成や、控除限度額等の管理の手間がかかり計算が煩雑となることです。
なぜ外国税額控除方式が有利なのか?
以下に簡単な税額計算例を作成しました。損金算入方式と外国税額控除方式を比較することで外国税額控除方式が有利であることを確認します。
【設例の条件】
・A社は外国税額として1,000千円支払った。
・上記以外の所得は20,000千円であった。
・実効税率は35%とする
※外国税額控除は住民税・事業税も適用可能のためそれらをまとめて実効税率としています。
損金算入方式 | 外国税額控除方式 | |
---|---|---|
課税所得の計算 | 課税所得20,000千円-外国税額1,000千円=19,000千円 | 課税所得20,000千円 |
税額の計算 | 19,000千円×35%=6,650千円 税額控除 ゼロ 納付税額 6,650千円 | 20,000千円×35%=7,000千円 税額控除 △1,000千円 納付税額 6,000千円 |
上記の設例では650千円外国税額控除を採用するほうが有利になります。計算イメージとしては「外国税額×(1-実行税率)」分だけ外国税額控除のほうが有利になります。
なお、外国税額控除方式か、損金算入方式かの選択は全ての外国法人税について一括して行う必要があります。一部の外国法人税は外国税額控除を適用し、残りの外国法人税については損金算入という選択はできないため注意が必要です。
外国税額方式を採用する場合の留意点
「外国法人税の額」のみが対象
外国税額控除の対象となる外国税額の額は、基本的には「法人の所得を課税標準として課される税額」が対象とされます。これを外国法人税といいます。具体的には、国外事業所等帰属所得や、その他の国外源泉所得(利子・配当・ロイヤリティ等)が該当します。
国外所得の範囲内でしか控除できない
外国税額控除は支払った外国税額の100%が控除できるとは限りません。全世界所得のうち、国外所得に対応する部分の税額のみが控除対象とされます。具体的には当期の控除対象外国法人税額に対して以下のような計算式で控除限度額を算出します。
控除限度額 = 当期の法人税額 × 当期の国外所得金額 / 当期の全世界所得金額
3年間繰り越しすることが可能
「控除対象外国法人税額 > 控除限度額」となる場合
控除対象外国法人税額が控除限度額を上回って、控除できない法人税額が残ってしまう場合は、その超過した金額は「控除限度超過額」として3年間繰り越して翌期以降の申告で適用することが出来ます。
「控除対象外国法人税額 < 控除限度額」となる場合
控除対象外国法人税額が控除限度額を下回って、控除枠が余ってしまう場合に、その余った金額は「控除余裕額」として3年間繰り越して翌期以降の申告で適用することが出来ます。
租税公課勘定元帳の点検
本来、外国税額控除の対象とすることが出来る税額を納付していても、損金算入で完結してしまっている会社をよく見かけます。外国税額控除を適用していない理由をヒアリングしたところ、「特に検討していない」という回答をいただくことも多いです。
継続的な取引から外国税額が生じている場合には、影響額も大きくなりやすいです。一度外国税額控除を適用する余地がないか検討することが税額最小化に繋がると考えられます。
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