法人成りをしたときの税務上の留意点① 【所得税申告の論点】

法人成りをした場合、法人設立以後は法人税の申告が必要ですが、それに加えて、1月1日から個人事業を廃業した日までの期間分の所得税の確定申告も必要になります

この最後の所得税の確定申告については、これまで行ってきた確定申告とは異なり、例外的な取扱いがあります。
感覚で計算すると誤りやすいため注意が必要です。

目次

法人成り時の所得税申告での誤りやすい処理

事業税の見込控除

法人成りに伴う個人事業廃業時の所得税の申告時点においては、事業税の納税額は確定していないことになります(申告年分の翌年に納税することになります)。

しかし、個人事業の廃業後に生じることが明らかであり、金額も合理的に算出可能であることから、事業税を見込額で必要経費に算入することが認められています。具体的には次の算式により計算した金額と規定されています。

              (A±B)×事業税率
事業税の見込控除額 =    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
              (1+事業税率)

A:事業税の課税見込額を控除する前の当該年分の当該事業に係る所得の金額
B:事業税の課税標準の計算上Aの金額に加算し又は減算する金額

難しい言葉が並んでいますが、

Aの部分は、1月1日~事業廃止の日までの事業所得の金額となります。
Bの部分は、事業所得の計算に適用した青色申告特別控除を加算し、事業税の計算における事業主控除(年間290万)を減算した金額となります。
※12カ月未満の場合、事業主控除は月割した金額のため注意が必要です。

A±Bの合計は事業税の課税標準を意味しており、それに事業税率(3%~5%)を掛けることで事業税の額を概算することができます。

簡略化すると、以下のような算式になります。


事業税の見込控除額 = (青色申告特別控除前の事業所得 - 事業主控除)×  事業税率 / (1+事業税率)

一括償却資産の未償却額

一括償却資産の未償却額がある場合、法人に引き継ぐことは出来ません。一括償却資産の未償却額は、全て廃業した年分の事業所得の必要経費に算入することとされています。

法人へ引き継いだ使用人への退職金相当額

個人事業時代の従業員が、法人成り後の新設法人でも引き続き勤務する場合、個人事業だった期間の退職金に相当する金額をどのように取り扱うか?という論点があります。
この点については、当該退職金相当額を新設法人に支払う場合、新設法人に支払う退職金相当額は廃業時の所得税申告において必要経費に算入することができることが規定されています。ただし、個人事業主が退職給与規程等を有し、退職給与の要支給額の計算が適正に行われていることが要件とされています。

繰延消費税額等

繰延消費税額等の金額が残っている場合には、廃業時の所得税申告において必要経費に算入することとされています。法人成りは個人事業を承継するのではなく、個人事業の廃止と法人の新設という法的整理になっており、事業を承継されず、繰延消費税額等の金額を事業を廃止した日の属する年分の必要経費に算入しなければ、その後の必要経費算入の機会が失われるためこのような規定がされています。

法人成り間際における損益の帰属(個人の損益か、法人の損益か)

法人成りを行った場合、個人事業時代の損益と新設法人の損益は厳密に区別してそれぞれ所得税申告と法人税等の申告を行う必要があります。例えば個人事業の廃業直前に発生した売上を新設法人で計上するといったようなことは認められていないため、注意が必要です。

ちなみに法人成りではなく、純粋な新規事業による法人設立の場合は、法人設立期間中に生じた個人の損益は法人の設立後最初の事業年度における損益として計上することが認められています(法基通2-6-2)。

個人事業の廃業後(最後の確定申告後)に必要経費が生じた場合はどうなる?

事業税の部分で説明した通り、所得税の必要経費は「その年において債務の確定した金額であること」が原則的な要件です。このため、申告段階でまだ債務の確定しない金額がある場合には必要経費に算入することが出来ません。

では、事業を廃止した後に必要経費が発生した場合はどうなるのでしょうか?

このような場合には、「更正の請求」で還付を受ける形で遡って必要経費への算入が認められています
(ただし、期限が事実が生じた日の翌日から2カ月以内とされており、通常よりかなり短く制限されているため注意が必要です。)

廃業時の確定申告においては事業廃止後に生ずる必要経費については、廃止年分の必要経費に算入され、廃止年分で控除しきれないときにはその前年分に遡って必要経費とすることになります(所令152)。

以上、法人成りに伴う個人事業廃止時の確定申告の注意点をご紹介しました。
例外的処理を忘れないようにしましょう!

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