相続財産に貸し駐車場がある場合の相続税の計算方法と留意点

相続税申告の対象者で、意外と多くの方が所有されているのが、月極駐車場やコインパーキングなどの貸駐車場です。

貸駐車場の評価は、一般的な宅地の評価とは多少異なる部分があることや、小規模宅地の特例の適用対象となる可能性もあり、今回は貸駐車場の計算のポイントと注意点をまとめて解説します。

※【免責事項】当記事は投稿日時点に施行される法令に基づき一般的な取扱いを記載したものです。閲覧者が当記事を参考にして行った税務申告は閲覧者自身の責任によって行われ、当記事の内容に誤りがあり閲覧者に損害が生じた場合でも当事務所は責任を負いません。

目次

貸し駐車場用地の財産評価

地目判定の留意点

貸し駐車場を評価する上で地目は「雑種地」として扱われます。建物の敷地として使用されている土地ではないためです。
たとえ登記簿上の地目が宅地であっても財産評価上は宅地としては取り扱われないため注意が必要です。

【参考】宅地と雑種地の定義
不動産登記事務取扱手続準則第68条及び第69条
・宅地 建物の敷地及びその維持若しくは効用を果たすために必要な土地
・(一部省略)
・雑種地 以上のいずれにも該当しない土地

ただし、宅地の一部として利用されているような駐車場については雑種地ではなく宅地として取り扱います。

貸し駐車場が路線価地域に存在する場合の計算方法

路線価地域の貸し駐車場を評価する場合の計算式は以下の通りです。

貸し駐車場の評価額 =
駐車場が宅地とした場合の1㎡当たりの価格 × 各種補正率 - 1㎡あたりの宅地造成費)× 地積 ※1

※1:正確には、その雑種地と状況が類似する付近の土地について評価した1平方メートル当たりの価額を基とし、その土地とその雑種地との位置、形状等の条件の差を考慮して評定した価額に、その雑種地の地積を乗じて計算した金額によって評価します。

雑種地であっても、貸し駐車場は宅地の場合と基本的には評価方法は同じような手順になります。

ただし、雑種地の場合は宅地造成費相当を控除することが可能です。もっとも、貸駐車場の場合は既にアスファルトや砂利敷きになっており、造成する必要がないことが多く、宅地造成費を控除できるケースは多くはありません。

貸し駐車場が倍率地域に存在する場合

倍率地域に存在する貸し駐車場の評価は長文化するためこのページでの解説は割愛します。

評価単位をどのように判断するか?

貸し駐車場はそれ単独で利用されているものもありますが、一方で家屋や建物、店舗に併設されている貸駐車場も多いです。
その場合、建物の敷地と駐車場を分けて評価するのか、一体で評価するのかといった問題が生じます。評価する単位の決め方によって評価額が大きく異なってくるため注意が必要です。

貸宅地の評価減をすることは可能か?

貸し駐車場は土地を第三者に貸していれば貸宅地として評価額が減額できるのでしょうか?

答えは、貸宅地としては減額することは出来ません。

貸宅地の評価減は、「宅地の上に存する権利」の目的となっている必要があるためです。貸し駐車場は、宅地でない以上、宅地の上に存する権利も生じないことから、「自用地」として評価することになります。

【参考】財産評価基本通達25
宅地の上に存する権利の目的となっている宅地の評価は、次に掲げる区分に従い、それぞれ次に掲げるところによる。(以下、省略)

賃借権の評価減をすることは可能か?

一定の貸し駐車場については賃借権を控除することが可能です。

その判断基準は、「土地の賃貸借契約」なのか、それとも「自動車の保管契約」に過ぎないのかです。具体的にはその土地を駐車場として利用するために誰の費用で整備しているかにより判断します。

オーナー自らが駐車場を整備して貸付けしている場合

土地のオーナー自らが駐車場として整備して貸付けを行っている場合は賃借権は認められません。この場合は、借り手に土地を貸し付けているのではなく、オーナーが整備した駐車場で自動車を保管する契約であると考えられるためです。

オーナーが運営会社に土地を貸付け、運営会社が駐車場を整備している場合

例えばコインパーキングのように、運営会社が自らの費用でコインパーキング設備(構築物)を設置している場合には土地の賃貸契約であり賃借権が認められると考えられます。

【参考】国税庁 タックスアンサー No.4627 貸駐車場として利用している土地の評価
車庫などの施設を駐車場の利用者の費用で造ることを認めるような契約の場合には、土地の賃貸借になると考えられますので、その土地の自用地としての価額から、賃借権の価額を控除した金額によって評価します。

この場合に、貸手が所有する土地の評価額からの控除する金額は以下の通りです。

(1) 地上権に準ずる権利として評価することが相当と認められる賃借権

たとえば、賃借権の登記がされているもの、権利金や一時金の支払のあるものや、堅固な構築物の所有を目的とするものなどが該当するとされます。

貸し駐車場の評価額=以下のいずれか低い金額
自用地としての価額 × 賃借権の残存期間に応じその賃借権が地上権であるとした場合の法定地上権割合
自用地としての価額 × 借地権であるとした場合の借地権割合

(2) (1)以外の賃借権

貸し駐車場の評価額=自用地としての価額 × 賃借権の残存期間に応じその賃借権が地上権であるとした場合の法定地上権割合の2分の1に相当する割合

貸し駐車場用地の小規模宅地の特例

一定の貸駐車場の敷地については「貸付事業用宅地等」として小規模宅地の特例を適用することが可能です。

貸付事業用宅地等とは、相続開始の直前において被相続人等の事業の用に供されていた宅地等で、一定要件に該当する被相続人の親族が相続または遺贈により取得したものを指します。

適用対象となった場合、以下の金額を課税価格から減額することが出来ます。相続人が生活の糧を得るための収入基盤を保護する観点から、特例が設けられているものです。

課税価格から減額可能な金額 = 評価対象となる宅地等の相続税評価額 × 50%
※面積は200㎡が限度になります。

適用するには一定の要件あるため以下で順番に確認します。

なお、当該一定の要件を満たしているかどうかの判定時点は相続開始の直前で判断します。

要件1.特例対象となる駐車場貸付事業に該当するかの判定

1-1.被相続人等が営んでいた貸駐車場か?

被相続人が所有する宅地等であっても、駐車場として貸付事業を行っている主体が以下のどちらかである必要があります。

被相続人本人が駐車場の貸付事業を行っていた場合
被相続人と生計を一にする親族が駐車場の貸付事業を行っていた場合

たとえば、被相続人ではなく、被相続人の親族など別の人が貸付事業を行っている場合や、被相続人自身の車を駐車するために利用していた場合は適用対象とならないため注意が必要です。

1-2.事業的規模ないしは準事業に該当するか?

小規模宅地の特例の対象となる駐車場は、原則として事業として行われているものでなければなりません。

事業と呼ぶほどの規模ではない小規模な貸し駐車場であっても、相続開始時点より3年以上前から駐車場の貸付けが行われている場合については、特例の対象となります(準事業として扱われます)。

また、相続開始より3年以内に貸付けが開始された場合は、事業的規模であれば特例の対象となります。

事業的規模かどうかについて、いわゆる5棟10室基準が採用されます。
参考リンク:国税庁 No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分

1-3.貸駐車場が構築物の敷地の用に供されているか?

小規模宅地の特例の対象となる駐車場は、駐車場の敷地に構築物が設置されている場合に限定されます。

適用可能なケースは、例えばアスファルト敷の駐車場であったり、機械式の駐車場である場合です。

なお、実務上よく見受けられるのが砂利敷きの駐車場です。砂利敷きが構築物に該当するかどうか一概に言えない部分があります。そのため、砂利敷きの駐車場を小規模宅地の特例を適用することは一定のリスクを伴うため慎重な判断が必要になります。

反対に、青空駐車場の場合は特例の対象となりません。青空駐車場とは、アスファルトや砂利、車止めを設置しておらず、ロープや止め石を置いただけの駐車場のことを指します。

1-4.貸駐車場代として相当の対価を得ているか?

小規模宅地の特例の対象となる駐車場は、相当の対価を得て継続的に行うものである必要があります。

「相当の対価」とは税法上明確に定義されていません。

基本的に第三者への貸付けであれば市場原理に沿って契約が成立した価格と推測出来るため問題になることは少ないと考えられますが、親族や友人に無償または安い金額で貸している場合には要件を満たさない可能性があります。

極端に書くと、月額1円で貸していたらそれが貸駐車場事業と言えるのかという論点です。

小規模宅地の特例は、被相続人が亡くなった後、残された家族である相続人の生活基盤を保護することが趣旨です。とすれば、対価を得ていないような貸駐車場まで保護する必要があるのか?という問題が生じます。

要件2.事業継続要件の判定

相続開始前から相続税の申告期限まで貸駐車場事業を継続する必要があります。

要件3.保有継続要件

対象となる貸駐車場用地を事業を承継した相続人が申告期限まで保有している必要があります。

貸し駐車場がある場合の申告書作成上のポイント

申告書の記載事項

相続税申告書に小規模宅地等の特例の適用を受ける旨を記載します。

申告書とともに添付が必要な書類

① 遺産分割協議書の写し(遺言による場合は遺言書の写し)
② 相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書に押印したもの)
③ 被相続人等が相続開始の日まで3年を超えて特定貸付事業を行っていたことを明らかにする書類

上記③の書類は、駐車場収入を不動産所得として所得税の確定申告書を提出しているため、通常は過去4年度分の所得税申告書の控を添付することになります。所得税申告書が無い場合であっても、特定貸付事業事業を行っていたことを疎明できれば問題がありません(例:契約書、領収書、入金記録等)。

参考法令等:財産評価基本通達25,87、措法69の4

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